cadenceギターのモリです。
突然ですが、皆さま。GRAPEVINEはお好きでしょうか。
私は日本のバンドでは一番好きで、学生の頃からよく聴いております。
ボーカルの田中さんのお名前をお借りして、息子の名前を付けようとしたくらい好きです。(私の苗字と組み合わせると、画数が壊滅的に悪かったので断念しました。)
高校生の時、カウントダウンジャパンで「豚の皿」のライブを見たのがキッカケでした。ああいうのを、雷に打たれたというんでしょうね。
それからというもの、そのずば抜けた演奏力、表現力に魅せられて、現在までGRAPEVINEを聴き続けております。
私にMarvin Gaye、Aretha Franklin、Al Kooperをはじめとするブルースやソウル、Rufus Wainwright、Wilcoなど優しくもどこかもの悲しさを孕んだ音楽に出会わせてくれたのが、GRAPEVINEです。
当時はサブスクがなかったので、皆さんも「好きなアーティストのインタビューを読んで他のアーティストをディグる」を繰り返していらっしゃったかと思います。私の場合、その中心がOasisとGRAPEVINEだったのです。
(エモ方面は、Owenで繋がった大学時代の先輩と、同時期に通いだした八王子にあるSenseless Recordsの影響です。)
大学でも同じくGRAPEVINEが好きな先輩方が沢山いらっしゃって、よくその魅力についてお酒を飲みながら話したものです。
しかし、社会人になってからというものGRAPEVINEについて語る機会を失っていまい(それはGRAPEVINEに限らないけど)、特に2010年代以降のGRAPEVINEの話ができる場が無くなってしまいました。
なので、折角このようなプラットフォームがあるので、とにかく「10年代GRAPEVINEを誰かと聴きたい」欲求を満たそうと思うのです。
という訳で、10年代を前後半の2回に分けて紹介していこうと思います。
ちなみに、特に曲の考察はしません。
私に文学的・音楽的深みについて語る程の知識や語彙がないため、深い考察やトリビア的な要素は別の方にお任せします。
作詞される田中さんは読書家だそうで、海外文学がモチーフになっている楽曲が多く存在します。
私には、そんな知的な音楽を解明するほどの偏差値の持ち合わせがありません。
GRAPEVINEは知れば知る程深いので、お好きな方は是非過去のインタビューなど探してみてください。
オフィシャルサイトにライターさんが書いたレビューも公開されたりしています。(https://www.grapevineonline.jp/review/)
当ブログでは、浅瀬をぱちゃぱちゃやって引き返すことにします。
00年代の終わり”TWANGS”
前段として、10年代以前のGRAPEVINEにも少し触れておきましょう。
GRAPEVINEは1997年にミニアルバム「覚醒」でメジャーデビューします。
アルバムと同タイトルの曲で始まる力強いリフは荒々しく、クラシカルなロックを彷彿とさせます。
このミニアルバムの最後に収録されているPacesは、その後のGRAPEVINEにとって代表曲になるスロウ、光について、アナザーワールド、Everyman,everywhereの鱗片を早くも感じさせる名曲です。
この曲のアウトロの美しさには涙が出ます。
この後も名盤をリリースし続け、特に00年代後期のGRAPEVINEの人気は凄まじいものだったと思います。
「déraciné」「From a Smalltown」「Sing」という大名盤を立て続けに発表。
これらは「邦ロックの金字塔」と言っても過言ではないアルバムで、邦ロックキッズ達を虜にしておりました。
そして2009年にリリースされたのが、10th「TWANGS」。
疾走、Darlin’ from hellなど、これまでのGRAPEVINEらしい邦ロック好きストライクな曲ももちろん健在です。
しかしその一方で、「Neil Young」を熟成させてロックの渋い部分を抽出したようなTwangなど、当時の邦ロックシーンのブームとは違う方向性の曲がいくつか収録されていたのです。
そしてこのアルバムは、She comes (in colors) という曲で終わります。
曲調はギターソロのペタペタとした音作りも相まって、一見お道化た雰囲気に聞こえるのですが、歌詞からは底知れぬ切なさを漂わせています。
「The Rolling Stones」のRuby Tuesdayを引き合いに歌われる一節がとても印象的な曲。
この頃から、GRAPEVINEの作品を「スルメアルバム」と呼ぶ人が増えていったような気がします。
また、同時期に田中さんのボーカリゼーションにも変化があったように感じます。
以前までのアルバムと聴き比べると、一つ一つの言葉を非常に明瞭に発音されているんです。
この変化は、2000年代におけるGRAPEVINEの歌詞に見受けられた、「実際に発音されている言葉と歌詞カードが違う」、文字と言葉のダブルミーニング的な作風が少なくなっていったことに起因するのかもしれません。
そうなれば、わざと曖昧に(時には英語の発音の様な巻き舌を使って)発音する必要が無くなったのではなかろうかと推測します。
だから私は、TWANGSがGRAPEVINEにとって非常に重要な転機になったと思うのです。
真昼のストレンジランド
さて、それでは今回の本題、2010年代のGRAPEVINEを聴いていきましょう。
記念すべき10年代最初の作品は、2011年にリリースされた「真昼のストレンジランド」。
ギター6弦Eの音が静かに響き、次第に壮大に力強く広がっていくSilveradoで始まり、放浪暮らしを思わせる肩の力が抜けたThis townに続く流れは何度聴いても素晴らしいです。
This townでのギター2本による長尺な掛け合いは、曲調は違えど「The Eagles」のHotel Californiaを思い起こさせます。
また、Dry Novemberは、まるでミュージカル映画のワンシーンで使われそうな、寂寥感を纏った美しさがあります。
(私は何故か「マイ・フェア・レディ」とか、そのあたりの時代のミュージカル映画のイメージがあるのです。)
殆どインストの夏の逆襲(morning light)、そして従来のGRAPEVINE節がはっきり感じられる最終曲、風の歌へと流れていきます。
放浪・自由とその対極にある苦悩が表現された、物語性のあるアルバムだと個人的には思っています。
MISOGI EP
2012年に続いてリリースされたのは、ミニアルバム「MISOGI EP」。
ミニアルバムでのリリースとあってか、前作「真昼のストレンジランド」と比較すると、多種多様な曲がそれぞれ異彩を放つ作品になっている気がします。
東日本大震災の後にリリースされた作品ということもあってか、個人的にどことなく陰鬱な空気を感じる作品です。
それを一番強く感じるのがRAKUEN。
サブスク等だと分かり辛いですが、フィジカルでの曲名の表記は左下から右上に向かって一本の取り消し線が引かれています。
RAKUENという名前ですが、本来はディストピア的要素の方が強い曲だと私は思います。
原発事故をきっかけに、生命活動と経済活動の間で揺れる電力確保の在り方について世間が分断されてしまった時期でした。
この頃からでしょうか、何となく「救われない、報われない」といった感覚が粘り強く染みついたのは。
あの頃のライブイベントをはじめとした娯楽産業が矢面に立たされていた構図って、今のコロナ禍に似ている気がします。
そういった意味で、GRAPEVINEの中でも今一番世の中にマッチした作品なのかもしれません。
ONIは、テレキャスっぽい鉄々しいカッティングに怪しげなアルペジオが重なる疾走感の強い曲。
日本昔話の鬼って、大体報われませんよね。そんなイメージが、当時の我々に重なっていたように感じます。
一曲目は全面にロックンロールを感じられるMISOGI。「覚醒」もロックンロールなサウンドから始まりますが、それよりも更に渋い雰囲気が漂っています。
そこに乗る言葉がまた面白い、田中さんにしか生み出せない歌詞だと思います。
全ての曲名が日本語のローマ字表記である点も、このミニアルバムがすごく印象的な要素の一つです。
愚かな者の語ること
2013年に発表された「愚かな者の語ること」は、個人的にGRAPEVINEの中でも大好きなアルバムです。
10年代以降のGRAPEVINEをあまり聴いていないという方がもしいるならば、まずお勧めしたい。
一曲目の無心の歌を聴いて、何となく、3rdアルバム「Here」の想うということを思い起こしたことを覚えています。
当時「あ!GRAPEVINEだ!」と大興奮。
どうやらセルフプロデュース作品のようで、それがまたGRAPEVINEらしさを強く感じさせた要因でしょうか。
続く2曲目は歌詞の通り”大団円”はないのに、哀切極まりない感覚でじりじりと胸がいっぱいになっていく1977。
コロナ禍でアップした我々の曲「Sunny」のデモ音源は、この曲の雰囲気の持つじりじり感を目指していたりします。(全然違うけど。)
そして、怪しげな曲調から一変、感傷的で雄大な展開を迎えるわれら。
冒頭の雰囲気からは、この曲の最後を想像することはできないと思います。
こういったアレンジがばっちり決まるあたり、誰にも真似できないGRAPEVINEのかっこよさだと思います。
そしてラスト、二重に響くボーカルが印象的な虎を放つへと続いていきます。
後半に鳴る鍵盤ハーモニカのような音とブチブチと歪むギターの絶妙なバランスが印象的で、なんとも儚く終わりを迎えます。
アルバムのタイトルにある「愚か者」というテーマが、各曲とどのように関係するのか歌詞を読みたくなりませんか?
そういった面でも、とても素晴らしいアルバムだと思います。
そして2010年代後半へ
GRAPEVINEは「愚かな者の語ること」を最後に長らく在籍していたポニーキャニオンを離れることになります。
そして、ビクターのへ移籍後リリースされた「Burning tree」がこれまた名盤。
この頃、付属DVDに「VIDEOVINE」というバラエティー番組みたいな映像特典が付いていて(大体、メンバーの方々がお酒を飲みながら何かをテーマに語る)、ファンとしては凄く嬉しかったです。
こちらはまたいずれ、10年代後半のGRAPEVINEについても触れたいと思います。
しかし、10年代前半のアルバムを改めて聴きましたが、やっぱりGRAPEVINEは他のバンドにない魅力が沢山ありますね。
後半はコチラ。
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