cadenceギターのモリです。
前回、2010年代前半におけるGRAPEVINEの作品をご紹介しました。
前回記事はコチラ。
2000年代最後の作品TWANGSに触れ、2010年代の作品として真昼のストレンジランド、MISOGI EP、愚かな者の語ることについてご紹介しました。
どれも名曲揃いの名盤です。
今回はその続き、2010年代後期の作品を改めて聴いてみたいと思います。
2010年代後期も全て名盤。私としては、この記事で紹介する4枚全で推しアルバムです。
この4枚、年齢を重ねるごとにじわじわと良さに気付いていくんです。
聴いたことがない方は、是非一聴をお勧め致します。
Burning tree
2015年に古巣ポニーキャニオンを離れ、心機一転ビクターのSPEEDSTAR RECORDSでリリースされたのが、「Burning tree」でした。
当時のツアーで一曲目に演奏されることが多かったIPAは、美しいアンサンブルに乗せてなんとも男性的な詞が歌われています。
自由や奔放と引き換えに失ったモノへの後悔。なにをいまさら。この曲の主人公は、何と情けない男でしょう。
けれど、男性って誰しも少しはこういう一面を持っているのではないかなと思います。
私もお酒を飲むとすぐ記憶を飛ばして馬鹿やります。(その懺悔ブログがコチラ。)
全然、他人のことを情けないと言えた立場じゃないんです。
奥さんにとって、機材買って喜んでる私の姿ってプラレールで遊んでいる子供と変わらないんでしょうね。
もう何億年も前から男性は女性に「バカねぇ」って言われ続けているんだろうなぁ・・・。
そういう意味で、男性は共感してしまう一曲じゃなかろうかと思います。
続いて、GRAPEVINEの新しい一面が垣間見えるMAWATAという曲も素晴らしい。
ひと昔前の歌謡曲のような雰囲気を持った独特な曲ですが、中盤でいきなりぶちっと曲調が変わります。
RadioheadのThe National Anthemみたいな感じにガラリ。
そんなギミックのおかげで曲の展開が混沌としていくわけですが、途中から聞こえてくるコンプな音色が気持ちいいカッティングフレーズを手掛かりに、サラっと元の歌謡曲感溢れるサビに戻ってきます。
すげー、の一言。圧巻です。
他にもThe Strokesみたいなガレージ感に、おっさんの叶わぬ恋を歌ったKOLなど、本当に名曲だらけ。
そしてこのアルバムは、サクリファイスで壮大な終わりを迎えます。
指引きクリーンサウンドなアルペジオとピアノに歌が乗る非常に静かな冒頭ですが、次第に熱量を増していきます。
ファズくらい歪んだ音も綺麗です。エレキギターを弾くものとして、ファズをうまく使いこなせるようになりたいものですね。
GRAPEVINEのアルバムの最終曲って爽やかだったりファンキーぽい雰囲気を持った曲が多いのですが、珍しく大団円感のある終わり方をします。
中でも随一、終わりというか何か「一つの物語が明けた」感じが強い気がします。
(我々世代は「サクリファイス」と聞くと、遊戯王思い出してしまうのよね。)
BABEL,BABEL
Burning treeの翌年2016年にリリースされたアルバムが「BABEL,BABEL」。
前作から非常に短いスパンでリリースされた今作ですが、前作とはまた少し趣が変わっています。
GRAPEVINEはボキャブラリーがないと意味が読み解けない歌詞が多いのですが、この作品以降は社会や政治への皮肉がハッキリと現れ始めているように思います。
ボキャ貧の私でも何となく分かる。
このアルバムでは、BABELがその一端を担っています。
露出がほとんどなく、インタビューでも曲の意味については多くを語らないGRAPEVINEですが、曲中には社会派で実にロックな精神が投影されています。
音楽のルーツこそブルースやソウルの色が強いGRAPEVINEですが、本当はパンク精神も物凄く強いバンドなんだと感じます。(シーンに全く流されないところも、パンクですね。)
思えばこの頃からでしょうか、政治的問題が山積されていることが、次々と表に現れてきたのは。
2015年〜2016年といえば、増税やら集団的自衛権容認などのゴタゴタがあった後だったと記憶しています。
当時「憲法解釈の変更」という、全く聞き触りの悪い言葉を初めて聞いた衝撃は凄まじいものでした。
「どうとでも解釈できるなら、何でもありじゃん。それ、国家じゃないよね。」という。(最近だけど、賭け麻雀の時も、法律無視で何でも有り感凄かったなぁ。)
世界的なテロ組織が活発に活動していた時期もこの頃でしたね。
東日本大震災の傷さえ癒えていない中です。(というか、未だに癒えてない。)
いよいよ日本中に「北斗の拳」さながらの世紀末感が溢れ出した、そういう年だった気がします。
そんな時代背景も踏まえて、BABELを聴くと感じるものがありますね。
さて、このアルバムには何とも小気味いい皮肉の効いた曲がもう一曲。
それが、TOKAKUという曲です。
世紀末感溢れる日本を直視しない若者たちへの皮肉が歌われているように聞こえます。
しかしこれって裏を返せば、そんな若者たちを理解できなくなってしまったミドルエイジへの皮肉とも取れる気がします。
些か滑稽でひょうきんな曲調も相まって、私には「若者への警鐘」というよりも「おっさんへ向けられた冷笑」に思えてなりません。
(映えとか、鬼滅の刃とか、能動的に新興文化を許容していけないあたり、自分もおっさんになったなと思います。)
この曲でアルバムが終わるあたり、非常にGRAPEVINEらしいと思います。
また、今作には物語調の雰囲気を纏った曲も存在しています。
Scarlet Aは、アメリカの小説家ナサニエル・ホーソーンによって執筆された「The Scarlet Letter」という小説から引用されたそうです。(ロッキンオンのインタビューより。後半は、ボニー アンド クライドが混ざっているらしい。)
Wiki曰く、この小説は不倫の罰として赤いAの字を服に付けさせられた女性の物語で、1850年に出版された作品。
インタビューでも語られていますが、バンジョーのようなアナログな楽器を入れることで、曲が持つ時代背景が一気に遡っていきます。
歌詞で直接1850年と語られているわけではありませんが、楽器の音色が持つイメージを使ってテーマとなった時代背景を連想されるあたり、流石のアレンジです。
(「The Scarlet Letter」、今度読んでみようかな。)
このアルバムからはもう一曲。SPF。
「愚かな者の語ること」に収録された1977という曲と同じく、じりじりと胸に切なさが押し寄せてくる名曲です。
真昼間、雲一つない快晴の日に聴くと涙がこみ上げてきます。(私は、「夜より昼間の方がエモい政党」所属。)
個人的に、この曲のイントロで聴けるギターの音がめちゃくちゃ好きです。
クリーンに聞こえるのですが、アクセントが付いているところだけほんの少し歪んでいる感じが最高。
音作りとシラブルが絶妙で、このワンフレーズで音楽的な技術力の高さが伝わってきます。(ギターで舌使わないからシラブルとは言わないか、、、ピッキングニュアンス?)
ROADSIDE PROPHET
更にその翌年2017年、バンドの20周年イヤーにリリースられたのが「ROADSIDE PROPHET」というアルバムです。
20周年記念なのに再録など特別なものではなく、普通に新作アルバムを作ってくれる当たり、流石はGRAPEVINEです。全然媚びない。
リリースが公表されてすぐトラックリストを見た時、これは水ですという曲が存在した衝撃は忘れられません。
聴くとストリングスの音色が美しい幻想的な曲。バンジョーのようなアナログ楽器も鳴っており、こちらも時代背景が過去のもののように思います。
(どうやら歌詞の一部にシェイクスピアの引用があるそうな。以前どこかで読んだのですが、思い出せず・・・)
他にも、レアリスム婦人、楽園で遅い朝食、世界が変わるにつれてなど、特徴的な曲名が多い気がします。
そもそも、ROADSIDE PROPHETっていうタイトルめちゃくちゃかっこいいし。
リード曲のArmaは、20周年らしい歌詞に注目です。
構成がすごくストレートで、シンプルで堂々とした曲です。寄り道一切なし。
こういう構成の曲って、GRAPEVINEでは珍しいです。というか初?かと。
更にこれまた珍しく、トランペットやトロンボーンが使われています。
これが20年の力強さを演出してますね。(ホーンは次のアルバムの曲でも使われていますが、本当に良い味出してます。)
そしてこの曲にも、絶妙な「おっさん」を感じます。
子供の頃に夢見たものにはなれなかったし、金持ちでもないし、若い自分の体とは違って無理がきかなくなってきていることに気づいているんだけど、まだ腐らまいとしようとしている感じ。
30歳を超えると、疲れが取れないんですよね。「疲れた」という言葉がつい漏れてしまう。
しかも、子供を抱き上げようとして人生初ぎっくり腰。自分の体が嘘のように、そして常識的に年老いていっています。
このペースで老いていて40代の頃にはどうなっちゃうんだろうという不安も強い。
嫌でも年を感じている、そんな世代の大人たちの胸にグサグサ刺さる曲ではないでしょうか。
さて、Shameがこのアルバムの風刺要素担当です。
世界中で起きている事全部に心を痛めていたら気が持ちませんが、無関心な人も怖いし、無関心でなければならない風潮も結構怖いですよね。
SNSで芸能人が政治の話をするな、とか。
曲調も相まってかなり風刺が効いています。サビでウッドブロックが鳴っているところが、皮肉っぽくて最高です。
そして、グッとくる担当Chain。
この曲を聴くと何ともいえないキリキリとした感じがします。
人間生きていると言語化できないことって沢山あります。
ブログに書いたりしてますが、曲の良さを言葉にするって中々出来ません。
私は人に仕事教えるのも苦手です。部下の査閲とか、自分でやった方が早えぇ、ってなる(良くない)。
ましてや、普段感じている感情を人に伝えることほど難しいものはないです。
そういうエコーを拾ったら、どう扱うべきなんでしょう。きっと一生悩んでるだろうな。
指引きのように丸い音のリフがめちゃくちゃ心地良いです。
結構歪んでいるんだけど、優しい音色です。
さて余談ですが、このアルバムには20th Anniversary Limited Editionが存在します。
通常盤には付属されない特典として、メンバーそれぞれが下積み時代を過ごした下北沢を歩きながらインタビューに答える姿が収められたDVDが付属します。
このインタビューでドラムの亀井さんが、中華料理店「珉亭」の前を通っていたように思います。個人的にとても興奮したシーン。
小澤さんに連れて行ってもらって、SPORTの来日観た後につっちーさんと3人で珉亭行ったなぁ。懐かしい。
珉亭のチャーハン食べたい。下北沢行かれる方は是非。
ALL THE LIGHT
そして、2010年代最後にして現在の最新作である「ALL THE LIGHT」。リリースされたのは2019年2月でした。
このアルバムは各曲の歌詞から、この10年(GRAPEVINEのデビューから数えれば20年以上)の間に大人になってしまった、我々世代へのメッセージが数多く歌われているのだと感じてなりません。
音楽産業として商業的に成功するには、流行の先端をリードし可処分所得の多い若者をターゲットにするのが普通だと思います。
(それを狙い通りにバズらせて、商業的成功を収めているアーティストやプロデューサーは本当に凄いです。先見の明が他者を圧倒している訳ですし。)
しかし、社会に出て、家を買い、親にもなって、そろそろ「俺って何のために働いてるんだろう」と、良くも悪くも一人前の大人っぽく迷い出す世代がクローズアップされているのです。
音楽産業のターゲットが、おじさんおばさんになりかけ世代とは。セールス的に成功するにはあまりに頼りないはず。
シーンを狙わずとも名盤を次々と発表していることは、GRAPEVINEの音楽的なレベルの高さを物語っていると言えるのではないでしょうか。
このアルバムは美しいコーラスワークと、歌詞における言葉全ての母音が「ア」で表現される開花で静かに幕を開け、続いてド派手なホーンセクションが彩るAlrightに雪崩れ込んで行きます。
この場面転換は、白雪姫とか不思議の国のアリスとか、長編アニメ映画が世に認められ始めた頃のディズニー映画を思い起こさせる程です。
PVの内容は、田中さんにめちゃくちゃ小さい不運が降りかかり続けるというもの。
絶妙に緩くて笑えるPVです。
single compilation「Chronology」に収録されたBREAKTHROUGHでは枯れた人達への皮肉が込められた一節がありましたが、Alrightでは、来る日も来る日も「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせてやり過ごしている大人への皮肉とも取れますし、「これからもっとしんどいけど、しょぼくれてるといい事ないぞ。」と喝を入れられているような気もします。
20年以上リスナーと向き合ったGRAPEVINEだからこそ歌えるテーマだと思います。
さて、このアルバムの「社会派ソング」は弁天とGod only knowsでしょうか。
この二曲が連続しており、かなり痛烈な皮肉が込められているように思います。
このアルバムは、Eraそして、すべてのありふれた光という曲で終わりを迎えます。
この2曲でダブルエンディングといった感じ。是非アルバムを通して聴いていただきたい。
すべてのありふれた光はGRAPEVINEの代表曲、光についてにもタイトルに採用されている「光」を冠しています。
GRAPEVINEにとって、「光」ってすごく重要な位置付けがされているように思います。
この曲がまた良い。あまりに良すぎて、子どもが産まれて奥さんと退院した日、車で流した曲。
つまり、私が子どもに対して初めて聴かせた曲です。
この曲もMVが良いので動画のリンクを貼りました。
このMV、どうやらちょっとストーリー仕立てなんです。
セリフがある訳ではないので、映像と歌詞から想像するしかないのですが。
描かれているのは、田中さん(演じる「物憂げな中年の男性」)が年の離れた若い女性に出会い、車で移動しながら時間を共にする姿。
最後はその女性が重そうな荷物を海に投げ捨てて、男性の前から姿を消すというストーリー。
一見、女性に悩みがあって、それに付き合ってあげてるおじさんという雰囲気に見えます。
でも、女性を茶化したりして余裕そうな男性ですが、彼にも悩みがあったんだろうなと想像します。
誰しもが対面する、現実を思い知ったミドルエイジおじさん特有の悩み。
だからこそ、男性は一人で漠然と遠出してたんだろうと思います。
そして、偶然にも自分と同じように「人生に悩んだ」人に出くわして、何かが変わるかもしれない気がしてヒッチハイクしていた女性を拾ったんでしょう。
そんな年も性別も違う人とのコミュニケーションの中で、お互い救われている気がします。
会話をしているシーンはないですが、女性が会話もろくにしていない男性の肩を借りて眠ることは絶対にないと思います。
そんなシーンからも、お互いの心の棘が少しずつ抜けて丸くなって救われていったように感じるのです。
MVでは一夜のように見えますが、一緒に結構旅したんでしょうか。
時間の流れについては明言されている訳ではないですが、そんな理由である程度時間の経過があったと見ても筋は通ると思います。
そして最後は、女性は過去の重い荷物を捨て去り、男性は一服。
二人とも複雑でまだ不安が拭えてる訳じゃないけれど、なんとなく光に触れたような表情をしています。
曲としても、すっきりハッピーエンドとは語られませんが、登場人物達がありふれたやりとりの中に光を見出した「かもしれない」という描き方がなんとも儚くとても素晴らしいと思います。
MVと歌詞が完全にリンクしているとは思っておりませんし、違う意見も沢山あろうと思いますが、ここは個人的な意見として受け取って頂ければ幸いです。
終わりに
ALL THE LIGHTのリリースはコロナ禍前でした。
その頃はコロナでこんな世の中になるなんて、誰も予想していなかったと思います。(AKIRAは別)
そんな中、GRAPEVINEもライブを少しずつ再開しているという嬉しいニュースが。
11月にホールツアーが3か所。またライブが見られるのは嬉しい限りです!
https://www.grapevineonline.jp/grapevine-fall-tour/
SNSで話題になっていましたが、田中さんは路上で弾き語りをしていたそうですから、ライブに対する思いも強かったんだと思います。
田中さんが文學界7月号に寄稿されていた文が切なかったので、活動が再開できて本当に良かった・・・。
https://books.bunshun.jp/articles/-/5659
前述の通り、大ベテランにも関わらず1年~2年とかなり短いスパンで新作を発表しているGRAPEVINE。
世の中が大変革を迎えた後、GRAPEVINEがどんな曲を発表するのか。
ファンとして次回作が心から楽しみです。
また、次の10年もGRAPEVINEの新しい作品を聴き続けていたいと心から願っています。
さぁ、皆さん、いかがでしたでしょう。GRAPEVINE、聴きたくなったんじゃないでしょうか。
まだまだ語り切れない曲が沢山あるので、また違う枠組みでGRAPEVINEについてブログに書きたいと思います。
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